予定通りの開催を望んだ日本の組織委員会
新型コロナウイルスが全世界的に猛威を振るう中、東京2020オリンピック、パラリンピック開催に向けて動いていた日本の組織委員会は、開催延期、もしくは中止という事態をなるべく回避するように努めていた。これまでにオリンピック関係者がおこなってきた労力、時間、金銭的コストなどを考えると、それも無理のないことである。
だが、当初の見込みよりも新型コロナウイルスの問題は拡大を続け、楽観的な見解を述べることが多かったWHO事務局長テドロス・アダノムも、3月11日におこなった会見でついにパンデミックに相当するという発言をおこなうこととなった。それでも3月17日におこなわれた臨時理事会後、国際オリンピック委員会(IOC)は公式に「延期をしない」という発表をおこなっている。
しかしその2日後、IOC会長トマス・バッハは「別のシナリオを用意している」と発言し、IOC内でも中止や延期が話し合われていることを暗に認めた。
またオリンピックに参加する予定だった選手たちからも、この状況下での開催に疑問の声が上がり始め、3月22日、ついにカナダのオリンピック、パラリンピック委員会が公式に選手団を派遣しない方針を発表した。これにオーストラリアのオリンピック、パラリンピック委員会も追随し、延期、中止への機運は急速に高まっていった。
初めての五輪延期へ
同じ頃、IOCと日本の組織委員会でもちょうど話し合いがもたれていた。3月22日に、IOCのバッハと日本の組織委員会会長の森喜朗が電話会談をおこなったのだ。その内容は延期についての話し合いだったといわれていたが、そのことは翌日に安倍晋三首相が、参議院予算委員会でオリンピックの延期について触れたことで、その信ぴょう性は増すこととなる。
そして3月24日、安倍首相が東京2020オリンピック、パラリンピックの延期を正式に発表した。その後共同声明という形で、組織委員会とIOCも延期を発表。これによりオリンピックの延期が、正式に決定したのだ。近代オリンピックは戦争を理由に、1916、40、44年に開催が中止されたことがあったが、開催が延期されたのは今回が初めてであり、延期、中止が戦争以外の理由でおこなわれたのも今回が初めてであった。
早急な日程発表への反応
延期決定のニュースは、多くの関係者や選手の支持を受けることになったが、しかしそれから1週間後の3月30日におこなわれた延期の日程の発表は、多くの識者に疑問を持って迎えられることになる。組織委員会、IOC、東京都、そして政府の4者で合意に達した日程は、2021年7月23日から8月8日までという具体的な内容である。新型コロナウイルスが収束の兆しを見せていない状況での具体的な日程の発表は、そう急すぎるという意見がその大勢を占めたのだ。実際、4月7日現在、日本における感染者は増え続ける一方だ。
多くのオリンピック代表選手は、現在トレーニングもままならない状況である。加えて幾つかの競技においては、まだ代表選手の選考がおこなわれていないものもある。新型コロナウイルスが収束する時期によっては、選手たちがその日程に向けてコンディションを整えられない可能性も存在するのだ。一先ず延期が決定したオリンピックだが、2021年の開催も前途多難な状況なのである。